「完全分離プラン」は2019年内にも?携帯料金はどうなる?
総務省は2019年3月5日に「電気通信事業法の一部を改正する法律案」の閣議決定をしました。これに伴い,2019年3~5月の通常国会で議論され,2019年4月23日に衆議院で可決,2019年5月9日に参議院でも可決しました。
このあとに総務省令の策定に入りますので,法改正は2019年夏から秋頃になると思われます。
今回の法改正は通称「完全分離プラン」と呼ばれています。その根拠は総務省が2018年11月に行った「モバイルサービス等の適正化に向けた緊急提言」に基づくものです。
- 「シンプルで分かりやすい携帯電話に関わる料金プランの実現」
- 「販売代理店の業務の適正性の確保」
の二つが柱です。本記事では,下記の大手メディアの解説も踏まえながら,できるだけわかりやすく一般市民の携帯料金にどう関係するかを中心に解説していきたいと思います。
総務省が緊急提言 通信料と端末代の完全分離を要請 代理店の在り方にもメス|ITmedia Mobile
端末割引はOK、docomo withはNG 「完全分離プラン」の中身を整理する|ITmedia Mobile
「シンプルで分かりやすい携帯電話に関わる料金プランの実現」は端末購入を条件とする割引をNGに
こちらの提言のきっかけは「4年しばり」でした。さすがにやり過ぎましたね。「2年しばり」については,提言の中に文言は出てきませんが,下記の文言があります。
● 「実質0円」というような表示に見られるように、端末代金と通信料金との区分が不分明で、利用者が何に対して幾ら支払っているか理解しづらい。
かの有名な「実質0円」がやり玉に挙げられています。つまり,端末購入を条件とする通信料金の割引がすべて対象になっていますので,「4年しばり」だけでなく「2年しばり」も駄目です。
docomo withも現行制度では継続困難
さらには「端末購入でずっと通信料を割り引きます」というdocomo withも駄目ということです。docomo withについては下記の記事をご参照ください。
docomo withについては完全廃止になるか施策変更になるかは現状では不明ですが,少なくとも永続的な割引である現行の制度は近々新規受付を終了するでしょう。ご検討はお早めに。
「端末購入サポート」も提言では見直し対象
解約に係る違約金の水準については、合理的な算定根拠に基づき設定されるべきものであり、違約金の水準が著しく高い場合には、スイッチングコストにより利用者を過度に拘束し、事業者間の公正な競争を阻害するものであるため、見直すことが求められる。
また,端末購入を条件として一定の期間,高額な違約金をかける「端末購入サポート」も上記の文言から見ると規制にかかると思われます。端末購入サポートについては下記の記事をご参照ください。
「一括0円」も「実質0円も」規制される見込み
ここまでをまとめると,
- 「月々サポート」「毎月割」「月月割」の規制=完全分離プラン→「実質0円」が消える
- 「端末購入サポート」「au購入サポート」「携帯電話購入サポート」の規制→「一括0円」が消える(ただし代理店独自施策は残る?)
以上のようになります。
まず1です。「4年しばり」だけでなく「2年しばり」や「docomo with」のような「端末購入を条件とする通信料金の割引」は,少なくともキャリア(ドコモ・au・ソフトバンク)の公式施策としては規制される見通しです。通信料金はキャリアしか手をつけられない分野なので,こちらはほぼ打つ手なしです。
あとウルトラCとしては,キャリア(ドコモ・au・ソフトバンク)が端末販売だけではなく,SIMカード(通信するためにスマホに入れるチップ)単体販売をして通信料金を割引する…という方法が考えられますが,そう簡単にはさせてくれないでしょう。
次に2です。端末購入を条件として,特にiPhoneのような高額な端末を大幅に割り引くことは,これもキャリア(ドコモ・au・ソフトバンク)の公式施策としては規制される見通しです。ただし,提言では端末の割引そのものを規制しているわけではありません。そうなると,「端末の割引は代理店が勝手にやった」という抜け道が考えられます。
この点は次の「提言2」の「販売代理店の業務の適正性の確保」がカギとなってきます。
「販売代理店の業務の適正性の確保」では代理店を届け出制での管理に
先にも挙げたように「通信料金の割引」については絶望的ですが,「端末料金の割引」については「代理店が勝手にやったことで…」というこれまでの方便が利く可能性があります。
ただ,これもこれまで散々イタチごっこを繰り返してきたことなので,「販売代理店の業務の適正性の確保」という提言がなされています。
- 代理店の届出制を導入
- 利用者に誤解を与える不適切な勧誘行為を禁止
- 通信サービスの提供を前提条件とする端末の販売・広告等について、業務改善命令等の規律を導入
上記の三つが見直しで新しく導入される予定です。2と3については,どこまでが「不適切」「規律」なのか主観的な部分もあるので,運用が始まるまで何ともいえませんが,1の「代理店の届出制を導入」の明示は影響が大きそうです。
一次販売代理店の下にある二次、三次の販売代理店等を含め、事業者による指導が十分に行き届いていない状況が見られるとともに、販売代理店における独自の過度な端末購入補助や、利用者に誤認を与えるおそれのある勧誘や独自の店頭広告等の不適切な業務実態については、総務省において業務改善を命じることができない等、必ずしも適切な担保措置が講じられている
とは言えない状況にある。加えて、総務省において、その実態把握が十分にできているとは言い難い状況にある。
提言にある上記の文言の「販売代理店における独自の過度な端末購入補助や、利用者に誤認を与えるおそれのある勧誘や独自の店頭広告等の不適切な業務実態」のあたり,よく現場を見てるなと逆に感心させられます。
というわけで,「行政が直接把握するための必要最小限の制度として、届出制を導入する」ということで,代理店も総務省に届出が必要になり,直接管理されることになりそうです。そうなると,「代理店が勝手にやったことで…」というこれまでの方便も難しくなりそうです。
まとめ
上記のまとめ図にあるように,今回の法改正は,
- モバイル事業者の競争の促進:大手3社の寡占によりMVNOが活躍できない
- 利用者利益の保護:料金体系がわかりにくく不公平
という2点の解決を目指しています。しかし,正直に言ってこの法改正で携帯料金が安くなるかと言えば疑問です。少なくとも現行のiPhoneのようなハイエンド端末を一括で10万円以上出して買う人は減るので,iPhoneやAndroidの高級端末は売れなくなるのではないでしょうか。
携帯電話の料金体系がわかりにくく不公平だというのは,その通りだと思います。これは是正されて然るべきですが,自由競争原理に総務省がどこまで割り込むのか…という懸念はあります。
- 「完全分離プラン」とは何か?
最後にタイトルで挙げた問いについてもう一度確認しておきたいと思います。
「電気通信事業法の一部を改正する法律案」による法改正は2019年夏から秋頃になると思われます。それまでに必要な方は,安く手に入る最後のチャンスをうまく活かしましょう。